花はな 桜
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


春先のお天気は気まぐれで、
ぐんぐんと暖かくなってったかと思いきや、
冬物の上着やストールがまだまだ要りような、
いわゆる“寒の戻り”も頻繁で。
せっかくの桜が、でもぼやけて見えるよな、
白っぽい曇天となっての花曇り、
風まで出て来て難儀したと。
ダウンジャケットを もこもこ着込んでの花見を
ニュース番組で取材されていたのが一昨日の晩ならば、
その後の雨にも何とか持ちこたえた花々がぐんとよく映える、
今日は朝からの好天、ラベンダー色の空も目映いくらい。

 「やあ、お花見日和じゃないですか♪」
 「本当にvv」
 「……vv(頷、頷)」

陽が照りさえすれば、
そりゃあ暖かい いいお日和は約束されたようなもの。
白っぽい花曇りが明けての今日は、
そりゃあ気持ちのいい青空が 萌え初めの緑に縁取られて広がる中。
小走りになるほど うきうきとはしゃいで、
誰からともなく 先を急ぐお嬢さんたちであり。
記録的の連呼だった厳寒の冬が、
あっと言う間に逃げてったのは、
多少なりとも“やり過ぎ”の観があったのを、
自覚してでもいたんでしょうかねぇ。

 「何でも擬人化するなんてのは イマドキですねぇ。」

悪ぁるかったなぁ。
いいトシのおばさんですよ、どうせ。
…なぁんていう場外からの悪態へ、小さなあかんべを寄越したは、
この春のトレンド、少し大きめの花柄をプリントされたフレアスカートに、
レース調ニットと目の詰んだシルクを重ねたガーリーなトップス。
春物のジャケットを一応は重ね着ているものの、
鎖骨もちらりするちょっと広く開いた襟ぐりは、
おとがいの線もすっきりと映え、それは綺麗なデコルテが何とも蠱惑的。
今は 十代の溌剌としたところと柔軟さが勝さっているが、
でもでも胸元のふくよかさは、
今から既に微妙に罪作り…というよな風貌ながら、
工学界に降臨したりた百年に一人の熾光天使、
ひなげしさんこと、平八さんで。
軽やかな足取りでくるんと回れば、
手入れのいい明るい色合いの髪も一緒に弾む、
そんな彼女へ、

 「ヘイさん、こっちですってよ?」

早くおいでというお声を先からかけて来たのは、
うららかな春の陽差しに照らされた つややかな金の髪が、
蜜をくぐらせたかのように目映く美しい、
そちらも それは端正な風貌の美少女で。
金の髪に白皙の額や頬がそれは麗しく、
きりりとした双眸の青が そこへとようよう映えるものの。
傍らのお連れから何を囁かれたか、
緋色の口元へと手を寄せ、
含羞むように頬笑むとちょっぴり甘い印象もする、
繊細な細おもてのお嬢さん。
薄手のコートは脱いでの肘へ。
藤色がかった甘いグレーという淡色のクロップパンツに、
チュニック丈の茜色のプルオーバーと、
ちょっぴり大人っぽい とがった襟元のドレスブラウス。
春めきに合わせた、品のいいベージュのパンプスが、
すっきりした足首を見せていて、
どれだけ足が長いかという、スタイルのよさを強調してもいて。
そんな装いも軽やかなこちらのお嬢さんは、
日本画の大家、草野画伯の一粒種、
白百合さんこと 七郎次さんといい。

 「……。」

そんな彼女のお隣り、
こちらはこちらで、やはり寡黙なお友達。
細い肩越しに背後を見やって来た切れ長の双眸は、
特に力んでいなくとも、ともすれば強靭なまでに鋭くて。
軽やかなくせっ毛の金髪に透き通るような白い肌という、
こちらさんもずんと日本人離れした 鋭角な風貌のお嬢さん。
過ぎるほどの無口さと無表情なところから、
いつものように玲瓏透徹な雰囲気を醸していつつも。
デニム地のジャケットの下、純白のオーバーブラウスは少し大きめ、
長さもチェニック丈ほどもあり。
そんなトップスの裾がヒラヒラする印象のせいだろか。
スリムな肢体を引き締める濃紺のデニンズは、
クラシカルな風合いの出たラフな感じへ何だか惹かれて、
いつもいつも引っ張り出してるお気に入り。
なので、特に気張った装いでもないのにね。
今日は不思議と 女の子らしさが強めに出ているような。
足元は靴下なしでのオープントゥ。
すっきりとくるぶしまで覗かせていて、
一足早い素足モードが、されど軽快で心地いい。
結構な高さがあった段差を、
何てことない所作でぽんっと飛び越えた彼女こそ、
日本のバレエ界を先で牽引すると期待されておいでの
紅ばらさんこと 久蔵さんだったりし。

 「いいお天気になってよかったですねぇ。」
 「ホント。
  雨になってしかも寒さが戻って来たから、どうなることかと。」

早めに咲いたせっかくの桜が散らないかというのは、
世間の評を聞くまでもなく、
彼女らもまた案じていたことだったけど。
それへとぽつり、紡がれたのが、

 「寒さは…。」

 おや、そうなんですか? 久蔵殿。
 え? なになに?
 いえね、寒くなったんで花保ちが良かったんですって。
 あ、そっかぁ。

じゃあ寒かったのは幸いだったんだね。
そうそう、雨のうちに早々と散っちゃわなくて助かったんだ…と。
寡黙なお嬢さんの意が あっさり通じ、
よかったよかったと頬笑むお嬢様がたこそ、
いづれが春蘭秋菊かという、それぞれに個性の立った美少女ぞろいで。
どこの誰かまでは知らないだろう、
たまたま居合わせた通りすがりの方々の、
大まかに拾っても半分ほどのお人らが、おっと目を見張り、注意を取られ、
そのままの わき見運転で歩き続けた挙句、
何でもないところで転びかけたり、車止めにぶつかったり、
はたまた、お連れに肘でつつかれて我に返ったり。

 「それぞれのたいそうな肩書が喧伝されんで あれだからなぁ。」

堤防沿いの道なりに植わったソメイヨシノが満開なだけじゃなく、
ぼちぼちと緑の絨毯も芽吹きつつある、ゆるやかな斜面は、
この辺りでは“大川の河原”で通っている河川敷の原っぱで。
見晴らしもいいし、桜の花つきも濃密な名所とあって、
恒例の花見をしようと集まった、いつもの顔触れではあったが。
本来の主役である並木の桜花さえ霞むよな、
そりゃあ瑞々しい麗しさをたたえたお嬢さんたちが
意図せずとも引き起こしておいでの仄かなざわめきが届いたか。
先に足場のいいところで敷物敷いての待っていた、
保護者のお一人がしょっぱそうな苦笑をし、

 「大体、三木の屋敷でも草野さんチでも、
  お前さんところの中庭でだって、
  そりゃあ見事な桜を拝めるというのにな。」

それだというに、わざわざ遠出をしての花見とは、と。
このような要らぬ騒ぎのおまけを疎んじてだろうが、
細い眉根をきゅうとしかめたお医者せんせえだったのへ、

 「まあまあ。」

おめかしに時間もかかろう娘御たちに成り代わり、
花見といえば付き物の、それは美味しそうな弁当だの、
つまみにスィーツだのを用意して来た、銀髪の偉丈夫シェフ殿。
磊落な自分とは正反対で、神経質そうな線の細さの立った連れへ、
気持ちは判るがと、宥めるようなお声をかけたのだけれど、

 「周囲で同じように興じる人らというのもあってこそ、
  花見という雰囲気も、更に盛り上がるというものでな。」

  それはあれか、
  映画は封切り館で大勢と観たいというような感覚か?

  さてな

そういうツッコミが返って来るとは思わなんだか、
いやはやと たじろいでおれば、

 「我らが知らぬところでゴソゴソされるよりは増しだ。」

やや意外な応じのお声が返って来たのは、そんな彼らの背後から。
おやと、先乗りの二人が振り返れば、
いかにも背広という風情のスーツに、読みかけの新聞片手という、
どう見ても職場からの直行だろう、ややくたびれた いでたちの。
サラリーマン風、されど
背中まで届かんという長々延ばした蓬髪やら、
精悍なお顔の顎へとたくわえられた年季の入ったお髭といい。
書道か俳界か、風流な趣味の世界のお人かも?という、
一部 判じ物みたいな風体の壮年殿が、
こちらも遅ればせながらで到着したらしく。

 「おお、こたびは早ように間に合うたな、勘兵衛殿。」

甘味処の店主、五郎兵衛殿が嬉しそうに目を見張る。
微妙で奇抜、飛び切り特別な縁つづきの顔なじみだというに、
忙しさが過ぎてこのような会合には ついつい同座出来ない彼だからで。

 “シチさんも寂しいに違いなかろうに。”

社会人だから仕事優先になるのは致し方ないし、
そこいらはあのよく出来たお嬢さんも承知で、良く我慢していると思う。
自分や個人診療医の兵庫もまた、
普通一般のサラリーマンとは微妙に異なる勤めだが、
裁量の範疇で 多少の融通は利かせられよう身。
だがだが、こちらの御仁だけはそうも行かない。
公務員だからというのみならず、
警察官という特別な職種に、しかも本人も入れ込んであたっているからで。
しかも、殺人や強盗という極めて物騒な事件専任なだけに、
一見、単純なオープンエンドシャット、
起きたその場で実行者も取っ捕まったような事件でも、
その背景には何が潜んでいることなやら。
1つ1つの事案が固有なものばかりとあって、
ルーチンワーク的にこなす訳にもいかないし。
人の情が絡まり合っての
のっぴきならなくなって起きたものともなりゃあ、
関係者を洗い出すだけでも とんでもない錯綜を見せていたりもし。

 “情なんて形の無いものへは眸をつむっての
  完全に割り切った事務的対処であたる方がいいものか。
  だがだが、それだと出て来ない真実ってものもあろうしな。”

と、これは榊せんせえからの感慨で。
様々な搦め手も熟知し、
そこから“策士”という陰口を叩かれてもいると聞くのに、
何故だろうか、彼の言動からは頼もしさしか感じないし、
そも、狡猾なだけならもっと出世していようにと思えば、
むしろ不器用なんじゃないかとさえ思えてしまう。
そんな損ばかりな人性もまた前世から持ち越しておいでの、
苦労人、島田勘兵衛 警部補殿。
ちなみに、そんな彼を捕まえて“策士”と呼んではばからないのは、

 “…ウチの久蔵が筆頭だろうがな。”

高校生となったと同時、身近へ懐かしいお顔が現れたものだから。
それが格別の刺激となったか、前世の記憶が戻ったその途端、
あの壮年との因縁もあっと言う間に蘇っていた辺り。
壮絶だった前世の生き様の中、
自分と過ごした大戦期のあれこれよりも、
勝ち目が薄いばかりで旨味なんてなかったろう、
野伏せりなんてな雑魚との小競り合いと、
そこで見出したあの風変わりな軍師の方を鮮烈に覚えていたとは。

 “……まあ、
  どういう順番だったかなんてのは どうでもいいんだが。”

そうと言う割に、
口元が微妙にひん曲がった榊せんせえだったのは、
まま武士の情けで見ない振りをするとして。(苦笑)

 「…あ。ゴロさんっ、お待たせしましたvv」
 「……♪」

待ち合わせの場所に、大好きな保護者の皆様の姿を見つけて、
ワッと今度は彼女らこそが、
晴れやかに されど可憐に含羞んで見せ。
中でも、

 「あ、勘兵衛様。/////////」

今朝方 送ったメールにもお返事はなかったし、
お忙しいのだ、最初からおいでということはなかろうなと、
半ば諦めてもいたのにね。
おいでにならないなら、せめて桜の写真を一杯撮って差し上げようと、
いつもなら携帯で間に合わせるところ、
わざわざデジカメを持って来たのに、

 “無駄になっちゃったかな?//////”

桜の花より判りやすい朱を白い頬に上らせて。
かつての前世では 鬼の副官なぞとまで呼ばれ、
きりきり尖ってばかりいたのも 今はすっかり忘れ去り。
日頃の闊達さやお転婆もどこへやら。
いつもそうならいいのにというヲトメなお顔になって、
お待ちかねのお花見の席へ駆け出した
三華さんたちだったのでありましたvv




     〜Fine〜 13.03.30.


  *先週からこっちは、
   都心の桜が随分と早くに満開になったニュースをよく聞きましたが、
   こちら近畿の桜もやや早く、
   大阪城も万博公園も姫路も夙川も王子公園も、
   四月に入るや否やで満開になりそうだとか。
   大丈夫でしょうか、造幣局の通り抜け。
   あすこは四月の半ばなんですよね、例年。
   咲くのが遅い品種が多いとは聞いていますがね。

   並木の桜とか、
   公園や広場へばらばらっと植えられた群なす桜も好きですし、
   立派な一本桜も枝垂れ桜も大好きです。
   あと、お池とか水路へ向けて枝が降りてく格好の、
   散り始めると水のおもてへ花筏が見られる桜も
   風情があっていいですよねvv

  *とて、お嬢様たちと保護者の皆様による花見の宴は、
   御馳走や甘味もさることながら、
   いろんなゲームを知っているゴロさんが、
   ウサギとニンジンと、ニンジンが嫌いなキツネ…とかいう
   変則的組み合わせのじゃんけんぽんから、
   変声器を使っての“後ろの正面誰ぁれ”に、
   箸ぶくろ折紙での罰ゲームまで。
   そりゃあ多彩なお楽しみを繰り出してくださるんでしょうね。

   ………で。

   同じ河川敷の土手にて、
   仔猫二人を連れた某家の方々とか、
   繁盛している車輛工房のお隣りさんとご一緒の、
   お料理上手なおっ母様と高校生剣豪、貫禄の壮年というご一行も、
   やっぱりお花見していたら……?(笑)

   いやもう、そこまでは面倒になってしまったので、
   皆さんのご想像にお任せしようとですね。(こらー)

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


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